Daily Mathematics / 解答
2026年10月23日の解答
この日のカードは難しい定積分とオリジナルのパトナム型の問題の2枚である。まず自分で考え、詰まったら解答を開くこと。
積分
隠れた幾何をもつ対数の二重積分

次の積分を閉じた形で求めよ。
\[\int_{-1}^{1}\!\int_{0}^{\pi}\ln\!\bigl(5-4\sqrt{1-x^{2}}\,\cos y\bigr)\,dy\,dx\]
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この積分を \(I\) とおく。長方形全体で \(5-4\sqrt{1-x^{2}}\cos y\ge 1\) であるから,被積分関数はなめらかである。
直接計算が面倒な理由。 内側の積分には,\(a>b\ge 0\) に対する古典的な公式 \(\int_{0}^{\pi}\ln(a-b\cos y)\,dy=\pi\ln\frac{a+\sqrt{a^{2}-b^{2}}}{2}\) が使える。\(a=5\),\(b=4\sqrt{1-x^{2}}\) とすると \(a^{2}-b^{2}=9+16x^{2}\) であり,\(I=\pi\int_{-1}^{1}\ln\frac{5+\sqrt{9+16x^{2}}}{2}\,dx\) を得る。計算は有限で終わるが,逆双曲線関数が絡み合い,答えの簡明さが隠れてしまう。被積分関数の形はもっとよい読み方を示唆している。
第1段:隠れた球面。 \((x,y)\in[-1,1]\times[0,2\pi)\) に対して \(P(x,y)=\bigl(\sqrt{1-x^{2}}\cos y,\ \sqrt{1-x^{2}}\sin y,\ x\bigr)\) とおく。これは単位球面 \(S^{2}\) 上の点であり,この写像は高さ \(x\) と経度 \(y\) による通常のパラメータ表示である。\(x=\cos\theta\) と書けば面積要素は \(dA=\sin\theta\,d\theta\,dy=dx\,dy\) となる。すなわち \(dx\,dy\) はちょうど球面の面積測度であり,これがアルキメデスの定理である。したがって球面上の任意の連続関数 \(g\) に対して \(\int_{S^{2}}g\,dA=\int_{-1}^{1}\int_{0}^{2\pi}g(P(x,y))\,dy\,dx\) が成り立つ。
第2段:被積分関数は距離である。 \(Q=(2,0,0)\) とおく。\(|P|=1\) であるから \(|P-Q|^{2}=|P|^{2}-2P\cdot Q+|Q|^{2}=5-4P_{1}=5-4\sqrt{1-x^{2}}\cos y\) であり,被積分関数は \(\ln|P-Q|^{2}\) に等しい。\(\cos(2\pi-y)=\cos y\) より \(y\in[\pi,2\pi]\) での積分は \([0,\pi]\) での積分に等しいので,\(J=\int_{S^{2}}\ln|P-Q|^{2}\,dA\) とおけば \(2I=J\) である。
第3段:回転する。 面積測度は回転で不変である。\(Re_{1}=e_{3}\) となる回転 \(R\) をとると \(|RP-RQ|=|P-Q|\),\(RQ=(0,0,2)\) であるから,\(J=\int_{S^{2}}\ln|P-(0,0,2)|^{2}\,dA=\int_{S^{2}}\ln(5-4P_{3})\,dA\) を得る。被積分関数は高さ \(P_{3}=x\) だけで決まり,第1段より \(J=\int_{-1}^{1}\int_{0}^{2\pi}\ln(5-4x)\,dy\,dx=2\pi\int_{-1}^{1}\ln(5-4x)\,dx\) となる。球面上の一様な点の高さは \([-1,1]\) 上で一様に分布する。これがこの技法の核心である。
第4段:1変数の積分。 \(u=5-4x\) とおけば \(\int_{-1}^{1}\ln(5-4x)\,dx=\frac14\int_{1}^{9}\ln u\,du=\frac14\bigl[u\ln u-u\bigr]_{1}^{9}=\frac14(9\ln 9-8)=\frac{9\ln 3-4}{2}\) である。よって \(J=\pi(9\ln 3-4)\),\(I=J/2=\frac{\pi}{2}(9\ln 3-4)\approx 9.2480800213\) を得る。
注意。 同じ計算により,球面の外側の任意の点 \(Q\) に対して \(\int_{S^{2}}\ln|P-Q|\,dA\) は \(|Q|\) だけで表される。これはニュートンの球殻定理の対数版である。
検証。 端点での平方根の振る舞いを除くため \(x=\sin t\) と置換したうえで,合成ガウス・ルジャンドル求積(1区間あたり120節点,40×40区間)により二重積分を数値計算した。結果は \(\frac{\pi}{2}(9\ln 3-4)=9.248080021324826\) と表示桁すべてで一致した(差は \(10^{-14}\) 未満)。
競技数学の問題
√3 の片側からの近似

実数 \(x\) に対して \(\{x\}=x-\lfloor x\rfloor\) とおく。次の数列の集積点のうち,区間 \([0,3]\) に含まれるものをすべて求めよ。\[\bigl(n\{n\sqrt{3}\}\bigr)_{n\ge 1}\]
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答。 ちょうど3つで,\(\frac{1}{\sqrt3}\),\(\frac{\sqrt3}{2}\),\(\frac{4}{\sqrt3}\) である。
最初に思いつくのは連分数 \(\sqrt3=[1;\overline{1,2}]\) とフルヴィッツ型の評価であろう。しかしそれらが制御するのは \(n\sqrt3\) から最も近い整数までの距離であり,この問題は片側の問題である。\(\{n\sqrt3\}\) が小さいのは \(n\sqrt3\) が整数のすぐ上にあるときだけであり,\(\sqrt3\) の両側の振る舞いは異なる。適切な道具はノルム形式 \(3n^{2}-m^{2}\) である。
第1段:正確な式。 \(n\ge1\) を固定し,\(m=\lfloor n\sqrt3\rfloor\),\(\delta=\{n\sqrt3\}\in(0,1)\) とおく(\(\sqrt3\) は無理数である)。整数 \(k_{n}=3n^{2}-m^{2}\) を考えると,\(k_{n}=(n\sqrt3-m)(n\sqrt3+m)=\delta(n\sqrt3+m)>0\) であるから \(k_{n}\) は正の整数であり, \[n\{n\sqrt3\}=\frac{k_{n}\,n}{n\sqrt3+m}=\frac{k_{n}}{\sqrt3+m/n}\qquad(*)\] が成り立つ。\(m<n\sqrt3\) であるから,すべての \(n\) について \(n\{n\sqrt3\}>k_{n}/(2\sqrt3)\) である。
第2段:有限の集積点はすべて,ある \(k\in K\) に対する \(k/(2\sqrt3)\) である。 ここで \(K\) は,\(3n^{2}-m^{2}=k\) が正の整数解を無限個もつような正の整数 \(k\) の集合とする。\(n_{j}\to\infty\) かつ \(n_{j}\{n_{j}\sqrt3\}\to L<\infty\) とする。第1段より十分先では \(k_{n_{j}}<2\sqrt3(L+1)\) であるから \(k_{n_{j}}\) は有界であり,部分列に移って \(k_{n_{j}}=k\) が一定であるとしてよい。このとき \(k\in K\) である。\(3-(m/n)^{2}=k/n^{2}\to0\) より \(m/n\to\sqrt3\) となり,\((*)\) から \(L=k/(2\sqrt3)\) を得る。
第3段:各 \(k\in K\) は集積点 \(k/(2\sqrt3)\) を与える。実は解が1つあれば十分である。 \(m,n>0\) が \(3n^{2}-m^{2}=k\) をみたすとき,\(m+n\sqrt3\) に単数 \(2+\sqrt3\)(ノルム \(4-3=1\))を掛けると \((m+n\sqrt3)(2+\sqrt3)=(2m+3n)+(m+2n)\sqrt3\) となる。よって \((n,m)\mapsto(m+2n,\,2m+3n)\) は \(3n^{2}-m^{2}\) を保ち,\(n\) を真に増やすので,解は無限個ある。それぞれの解について,\(n\) が十分大きければ \(n\sqrt3-m=k/(n\sqrt3+m)\in(0,1)\) であるから \(m=\lfloor n\sqrt3\rfloor\),\(k_{n}=k\) となる。\(m/n\to\sqrt3\) であるから,\((*)\) より \(n\{n\sqrt3\}\to k/(2\sqrt3)\) である。
第4段:関係する \(k\)。 \([0,3]\) 内の集積点には \(k\le 6\sqrt3\approx10.39\),すなわち \(1\le k\le10\) が必要である。このうち \(3n^{2}-m^{2}\) の値となるものを決定する。
mod 3:\(m^{2}\equiv-k\pmod3\) であり平方数は \(0,1\pmod3\) であるから \(k\not\equiv1\pmod3\)。これで \(k=1,4,7,10\) が除かれる。
mod 4:\(n^{2},m^{2}\in\{0,1\}\pmod4\) より \(3n^{2}-m^{2}\in\{0,2,3\}\pmod4\) であり,\(1\) にはならない。これで \(k=5\) が除かれる。
\(k=6\):このとき \(3\mid m\) であり,\(m=3m'\) とおくと \(n^{2}-3m'^{2}=2\),すなわち \(n^{2}\equiv2\pmod3\) となり不可能である。
\(k=9\):同様に \(m=3m'\) として \(n^{2}-3m'^{2}=3\),よって \(3\mid n\)。\(n=3n'\) とおくと \(3n'^{2}-m'^{2}=1\) となり,これはすでに除外した場合である。
残りは実際に表される:\(k=2\) は \((n,m)=(1,1)\),\(k=3\) は \((2,3)\),\(k=8\) は \((2,2)\) による。第3段よりこれらは \(K\) に属する。
結論。 \([0,3]\) 内の集積点は \(\frac{2}{2\sqrt3}=\frac{1}{\sqrt3}\),\(\frac{3}{2\sqrt3}=\frac{\sqrt3}{2}\),\(\frac{8}{2\sqrt3}=\frac{4}{\sqrt3}\) である。副産物として,すべての \(n\) について \(n\{n\sqrt3\}>1/\sqrt3\) であるから,\(1/\sqrt3\) 未満の点(特に \(0\))は集積点ではない。\(4/\sqrt3\) の次の集積点は \(11/(2\sqrt3)\approx3.18\) であり,区間の外にある。\(\sqrt3\) の反対側ではペル方程式 \(m^{2}-3n^{2}=1\) が解をもつので,\(n(1-\{n\sqrt3\})\) は \(1/(2\sqrt3)\) 程度まで小さくなる。この非対称性は本物である。
検証。 整数平方根を用いて,\(n\le 3\cdot10^{6}\) のすべての \(n\) について \(n\{n\sqrt3\}\) を正確に計算した。\(n>1000\) で値が \(3.2\) 以下となるものはすべて \(k_{n}\in\{2,3,8,11\}\) をみたし,\(0.5773502\),\(0.8660254\),\(2.3094010\),\(3.1754264\) の近くに集まっていた。また有限の範囲での全数探索により,\(3x^{2}-y^{2}\) は \(2,3,8\) を値にとり,\(1,4,5,6,7,9,10\) はとらないことを確かめた。