Daily Mathematics / 解答
2026年10月19日の解答
この日のカードは難しい定積分とオリジナルのパトナム型の問題の2枚である。まず自分で考え、詰まったら解答を開くこと。
積分
単位正方形の対数エネルギー

次の積分を閉じた形で求めよ。
\[\iiiint_{[0,1]^{4}}\ln\bigl((x-u)^{2}+(y-v)^{2}\bigr)\,dx\,dy\,du\,dv\]解答を開く
求める積分を \(I\) とおく。\(I\) は単位正方形内の独立な一様乱点 \(P=(x,y)\),\(Q=(u,v)\) に対する \(\ln|P-Q|^{2}\) の平均である。対角線 \(P=Q\) 上の対数特異性は可積分である(2次元では \(\int r\ln r\,dr\) が収束する)から,\(I\) は有限である。四つの積分を一つずつ実行しようとすると,最初の二つで残りの変数についての逆正接と対数が絡み合い,見通しが失われる。鍵は被積分関数が差だけに依存することである。
第1段:2重積分への帰着。 \(s=x-u\),\(t=y-v\) とおく。\(x,u\) が独立に \([0,1]\) 上一様に分布するとき,\(s\) は \([-1,1]\) 上で三角形型の密度 \(1-|s|\) をもつ(\(\{u\in[0,1]:u+s\in[0,1]\}\) の長さである)。\(t\) も同様であり,\(s,t\) は互いに素な変数の組から作られるので独立である。よって
\[I=\int_{-1}^{1}\!\int_{-1}^{1}(1-|s|)(1-|t|)\ln(s^{2}+t^{2})\,ds\,dt=4\int_{0}^{1}\!\int_{0}^{1}(1-s)(1-t)\ln(s^{2}+t^{2})\,ds\,dt\]を得る(\(s\) と \(t\) それぞれについての偶関数性を用いた)。
第2段:三角形上の極座標。 最後の被積分関数は \(s,t\) について対称であるから,\(I\) は三角形 \(0\le t\le s\le 1\) 上の積分の \(8\) 倍である。そこで \(s=r\cos\theta\),\(t=r\sin\theta\),\(0\le\theta\le\pi/4\),\(0\le r\le\sec\theta\)(辺 \(s=1\))とおく。\(\ln(s^{2}+t^{2})=2\ln r\) であるから
\[I=16\int_{0}^{\pi/4}\!\int_{0}^{\sec\theta}\bigl(r-(\cos\theta+\sin\theta)r^{2}+\cos\theta\sin\theta\,r^{3}\bigr)\ln r\,dr\,d\theta\]である。
第3段:動径方向の積分。 \(k\ge0\),\(R>0\) に対して \(\int_{0}^{R}r^{k}\ln r\,dr=R^{k+1}\Bigl(\dfrac{\ln R}{k+1}-\dfrac{1}{(k+1)^{2}}\Bigr)\) である。\(R=\sec\theta\),\(\tau=\tan\theta\) とおくと \((\cos\theta+\sin\theta)R^{3}=R^{2}(1+\tau)\),\(\cos\theta\sin\theta\,R^{4}=\tau R^{2}\) であるから,内側の積分は
\[\sec^{2}\theta\Bigl[\Bigl(\frac16-\frac{\tau}{12}\Bigr)\ln\sec\theta-\frac{5}{36}+\frac{7\tau}{144}\Bigr]\]に等しい。実際 \(\frac12-\frac{1+\tau}{3}+\frac{\tau}{4}=\frac16-\frac{\tau}{12}\),\(-\frac14+\frac{1+\tau}{9}-\frac{\tau}{16}=-\frac{5}{36}+\frac{7\tau}{144}\) である。
第4段:角度方向の積分。 \(w=\tan\theta\) とおくと \(dw=\sec^{2}\theta\,d\theta\),\(\ln\sec\theta=\frac12\ln(1+w^{2})\) であるから
\[I=16\int_{0}^{1}\Bigl[\Bigl(\frac1{12}-\frac{w}{24}\Bigr)\ln(1+w^{2})-\frac{5}{36}+\frac{7w}{144}\Bigr]dw\]となる。部分積分により \(\int_{0}^{1}\ln(1+w^{2})\,dw=\bigl[w\ln(1+w^{2})-2w+2\arctan w\bigr]_{0}^{1}=\ln2-2+\frac{\pi}{2}\) であり,\(\pi\) はこの逆正接から現れる。また \(q=1+w^{2}\) とおけば \(\int_{0}^{1}w\ln(1+w^{2})\,dw=\frac12\int_{1}^{2}\ln q\,dq=\ln2-\frac12\) である。したがって括弧内の積分は
\[\frac{1}{12}\Bigl(\ln2-2+\frac{\pi}{2}\Bigr)-\frac1{24}\Bigl(\ln2-\frac12\Bigr)-\frac{5}{36}+\frac{7}{288}=\frac{\ln 2}{24}+\frac{\pi}{24}-\frac{25}{96}\]であり,
\[I=\frac{2(\pi+\ln2)}{3}-\frac{25}{6}\approx-1.6101734439\]を得る。言い換えれば,単位正方形内の2つの乱点の距離の対数の平均は \(\frac{\pi+\ln 2}{3}-\frac{25}{12}\) である。
検算。 第1段の2重積分を,角 \(s=t=0\) に向けて2進的に細分した区間(40 段および 50 段)上で 60 点および 80 点のガウス・ルジャンドル複合求積により計算し,いずれも閉じた形と \(10^{-15}\) 以内で一致した。さらに元の4重積分を \(10^{7}\) 個の標本によるモンテカルロ法で評価し,\(-1.61057\pm0.00040\) を得た。これは標準誤差の範囲内で一致する。
競技数学の問題
正六角形の頂点における交代和

連続関数 \(f:\mathbb{R}^{2}\to\mathbb{R}\) であって,平面上のすべての正六角形 \(P_{1}P_{2}P_{3}P_{4}P_{5}P_{6}\) に対して
\[\sum_{k=1}^{6}(-1)^{k}f(P_{k})=0\]が成り立つものをすべて求めよ。
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解は
\[f(x,y)=a+bx+cy+dx^{2}+exy+gy^{2}+(x^{2}+y^{2})(hx+ky)+m(x^{2}+y^{2})^{2}\](\(a,b,c,d,e,g,h,k,m\) は実定数)の形の関数全体,すなわち 9 次元の空間 \(V\) にちょうど一致することを示す。正方形の場合(頂点の交代和が消えるのは \(a+bx+cy+d(x^{2}+y^{2})\) に限る)からの類推や,低次の多項式を特別な六角形で試すことからは 4 次元の答えが予想されるが,それでは \((x^{2}+y^{2})^{2}\) のような 3 次と 4 次の解を見落とす。正しい視点は複素数である。
第1段:二つの正三角形。 平面を \(\mathbb{C}\) と同一視し,\(\zeta=e^{2\pi i/3}\) とおく。中心 \(c\) の正六角形 \(P_{1}\dots P_{6}\) では \(P_{k+3}-c=-(P_{k}-c)\) であり,\(P_{1},P_{3},P_{5}\) は正三角形をなすから,\(u=P_{1}-c\ne0\) として \(\{P_{1},P_{3},P_{5}\}=\{c+\zeta^{j}u\}\),\(\{P_{2},P_{4},P_{6}\}=\{c-\zeta^{j}u\}\)(\(j=0,1,2\))である。逆に任意の \(c\) と任意の \(u\ne0\) がこうして現れる。
\[T_{c}(u)=\sum_{j=0}^{2}f(c+\zeta^{j}u)\]とおくと,条件は \(T_{c}(-u)-T_{c}(u)=0\),すなわち 各 \(c\) について \(T_{c}\) が偶関数である ことと同値である。この条件は \(f\) について線形であり,平行移動で不変である。
第2段:\(V\) の元はすべて解である。 整数 \(p,q\ge0\) に対して
\[\sum_{j=0}^{2}(c+\zeta^{j}u)^{p}\,\overline{(c+\zeta^{j}u)}^{\,q}=\sum_{i,l}\binom{p}{i}\binom{q}{l}c^{p-i}\bar c^{\,q-l}u^{i}\bar u^{\,l}\sum_{j=0}^{2}\zeta^{j(i-l)}\]であり,内側の和は \(i\equiv l\pmod 3\) のとき \(3\),それ以外のとき \(0\) である。\(p,q\le2\) ならば \(0\le i,l\le2\) であるから \(i=l\) の項だけが残り,それらは \(u\) について偶数次 \(2i\) であるから,和は \(u\) の偶関数である。\(p,q\le2\) に対する \(z^{p}\bar z^{q}\) の実部と虚部は \(1,x,y,x^{2}-y^{2},xy,x^{2}+y^{2},x(x^{2}+y^{2}),y(x^{2}+y^{2}),(x^{2}+y^{2})^{2}\) であり,これらは \(V\) を張る。たとえば \(\sum_{j}|c+\zeta^{j}u|^{4}=3(|c|^{2}+|u|^{2})^{2}+6|c|^{2}|u|^{2}\) である。
第3段:滑らかな解は \(V\) に属する。 \(f\) を \(C^{\infty}\) 級の解とし,ヴィルティンガー微分 \(\partial=\frac12(\partial_{x}-i\partial_{y})\),\(\bar\partial=\frac12(\partial_{x}+i\partial_{y})\) を用いる。\(f\) は実数値であるから \(\bar\partial^{\,3}f=\overline{\partial^{3}f}\) である。\(c,u\) を固定し,実数 \(t\) に対して \(h(t)=T_{c}(tu)\) とおく。\(t\ne0\) で \(h(t)=h(-t)\) であり,連続性によりすべての \(t\) で成り立つから \(h'''(0)=0\) である。方向 \(v\in\mathbb{C}\) に対して
\[\frac{d^{3}}{dt^{3}}f(c+tv)\Big|_{t=0}=\sum_{i+l=3}\binom{3}{i}v^{i}\bar v^{\,l}\,\partial^{i}\bar\partial^{\,l}f(c)\]である。\(v=\zeta^{j}u\) について和をとると \((i,l)\) の項には \(\sum_{j}\zeta^{j(i-l)}\) が掛かり,\(i-l\in\{3,1,-1,-3\}\) であるから \((3,0)\) と \((0,3)\) だけが残って
\[0=h'''(0)=3\bigl(u^{3}\partial^{3}f(c)+\bar u^{3}\bar\partial^{\,3}f(c)\bigr)=6\,\mathrm{Re}\bigl(u^{3}\partial^{3}f(c)\bigr)\]を得る。\(u^{3}\) は \(\mathbb{C}\) 全体を動くから \(\partial^{3}f\equiv0\),したがって \(\bar\partial^{\,3}f\equiv0\) である。\(a+b=6\) の作用素 \(\partial^{a}\bar\partial^{\,b}\) は \(a\ge3\) または \(b\ge3\) を満たすので \(f\) を消す。\(\partial_{x}=\partial+\bar\partial\),\(\partial_{y}=i(\partial-\bar\partial)\) であるから \(f\) の 6 階偏導関数はすべて 0 であり,\(f\) は 5 次以下の多項式である。これを \(f=\sum a_{pq}z^{p}\bar z^{q}\) と一意に表す。\(\partial^{3}(z^{p}\bar z^{q})=p(p-1)(p-2)z^{p-3}\bar z^{q}\) は相異なる単項式を相異なる単項式に写すから,\(\partial^{3}f=0\) より \(p\ge3\) のとき \(a_{pq}=0\) であり,同様に \(\bar\partial^{\,3}f=0\) より \(q\ge3\) のとき \(a_{pq}=0\) である。よって \(f\in V\) である。
第4段:連続から滑らかへ。 \(f\) を連続な解とし,\(\varphi_{\varepsilon}\ge0\) を半径 \(\varepsilon\) の円板に台をもち積分が \(1\) の滑らかな関数とする。\(f_{\varepsilon}(z)=\int f(z-y)\varphi_{\varepsilon}(y)\,dy\) は滑らかであり,正六角形の平行移動 \(P_{k}-y\) もまた正六角形であるから
\[\sum_{k=1}^{6}(-1)^{k}f_{\varepsilon}(P_{k})=\int\Bigl(\sum_{k=1}^{6}(-1)^{k}f(P_{k}-y)\Bigr)\varphi_{\varepsilon}(y)\,dy=0\]である。第3段より \(f_{\varepsilon}\in V\) である。\(\varepsilon\to0\) のとき,一様連続性により \(f_{\varepsilon}\) は任意の閉円板 \(K\) 上で \(f\) に一様収束する。\(V\) から \(K\) への制限は単射である(開集合上で消える多項式は 0)から,\(V|_{K}\) は \(C(K)\) の有限次元部分空間であり閉集合である。よって \(f|_{K}\in V|_{K}\) であり,対応する \(V\) の元は一意であるから \(K\) によらない。したがって \(f\in V\) である。
結論。 連続な解はちょうど上の 9 パラメータの族である。1 次関数と \(x^{2},xy,y^{2}\) のほかに,\(x(x^{2}+y^{2})\),\(y(x^{2}+y^{2})\),\((x^{2}+y^{2})^{2}\) も条件を満たす。
検算。 7 次以下の実多項式全体(36 次元)に対し,ランダムな 400 個の正六角形(両方の向き)で条件を課して計算機で解いた。解空間の次元はちょうど 9 であり,上の 9 個の基底関数はさらに 2000 個のランダムな正六角形で丸め誤差 \(2\times10^{-11}\) 以内で条件を満たし,\(x^{3}\),\(x^{2}y^{2}\),\((x^{2}+y^{2})x^{2}\) などの試験関数は条件を満たさなかった。