Daily Mathematics / 解答
2026年10月11日の解答
この日のカードは難しい定積分とオリジナルのパトナム型の問題の2枚である。まず自分で考え、詰まったら解答を開くこと。
積分
三角多項式の対数の半周期にわたる積分

次の定積分を閉じた形で求めよ。
\[\int_{0}^{\pi}\ln\bigl(3+2\cos x-2\cos 2x-2\cos 3x\bigr)\,dx\]解答を開く
積分を \(I\) とし,\(t^{3}=t+1\) のただ一つの実根(プラスチック数)を \(\rho\approx1.3247\) とおく。\(I=2\pi\ln\rho\) であることを示す。
直接の計算が行き詰まる理由。対数の中身は実の範囲では因数分解の見えない三角多項式であり,置換も対数のフーリエ展開も糸口にならない。鍵は,これを単位円上の絶対値の平方とみることである。
第1段:隠れた絶対値の平方。\(P(z)=z^{3}-z-1\),\(z=e^{ix}\) とおくと \(\bar z=z^{-1}\) であり
\[|P(z)|^{2}=(z^{3}-z-1)(z^{-3}-z^{-1}-1)=3+(z+z^{-1})-(z^{2}+z^{-2})-(z^{3}+z^{-3})\]となる。これは \(3+2\cos x-2\cos 2x-2\cos 3x\) にほかならない。被積分関数は \(0\) にならない。実際,\(|z|=1\) かつ \(z^{3}=z+1\) ならば \(|z+1|=1\) より \(z=e^{\pm 2\pi i/3}\) であるが,このとき \(z^{3}=1\),\(z+1=e^{\pm i\pi/3}\neq1\) となり矛盾する。よって \(I=\int_{0}^{\pi}2\ln|P(e^{ix})|\,dx\) である。
第2段:円周全体へ。\(P\) は実係数なので \(|P(e^{-ix})|=|\overline{P(e^{ix})}|=|P(e^{ix})|\) であり,被積分関数は \([0,2\pi]\) 上で \(x=\pi\) に関して対称である。したがって
\[I=\int_{0}^{2\pi}\ln|P(e^{ix})|\,dx.\]第3段:一次因子に対する Jensen の公式。\(|r|\neq1\) なる複素数 \(r\) に対して \(\int_{0}^{2\pi}\ln|e^{ix}-r|\,dx=2\pi\ln\max(1,|r|)\) を示す。\(|r|<1\) ならば \(|e^{ix}-r|=|1-re^{-ix}|\) であり,\(\ln|1-re^{-ix}|=-\operatorname{Re}\sum_{n\ge1}r^{n}e^{-inx}/n\) は一様収束し,各項の平均は \(0\) であるから積分は \(0\) である。\(|r|>1\) ならば \(|e^{ix}-r|=|r|\,|1-e^{ix}/r|\) と書いて \(1/r\) に同じ議論を適用すれば \(2\pi\ln|r|\) を得る。
第4段:根の位置。\(f(t)=t^{3}-t-1\) とおく。\(f'\) は \(t=\pm1/\sqrt3\) で \(0\) となり,極大値 \(f(-1/\sqrt3)=-1+\tfrac{2}{3\sqrt3}\) は負であるから,\(f\) の実根はただ一つ \(\rho\) であり,\(f(1)=-1<0<5=f(2)\) より \(1<\rho<2\) である。残りの二根 \(w,\bar w\) は根の積が \(1\) であることから \(\rho\,|w|^{2}=1\) をみたし,\(|w|=\rho^{-1/2}<1\) である。
第5段:まとめ。\(P(z)=(z-\rho)(z-w)(z-\bar w)\) であるから,第3段により単位円の外にある根だけが寄与し
\[I=2\pi\ln\rho,\qquad \rho=\sqrt[3]{\tfrac{9+\sqrt{69}}{18}}+\sqrt[3]{\tfrac{9-\sqrt{69}}{18}}\]を得る(\(\rho\) の表示は Cardano の公式による)。数論の言葉では,\(I/(2\pi)\) は \(t^{3}-t-1\) の対数 Mahler 測度であり,これは円分的でない 3 次多項式の Mahler 測度として最小のものである。
検算。\([0,\pi]\) 上で 100 点 Gauss-Legendre 則を 40 区間および 200 区間で用いると \(1.766829033771188\dots\) を得て,\(2\pi\ln\rho\) と \(10^{-15}\) 以内で一致した。第1段の恒等式は \(2\times10^{5}\) 点の格子上で \(6\times10^{-15}\) まで確かめ,被積分関数の値は常に \(0.12\) を上回ることも確認した。
競技数学の問題
素数を法として消えるべき和

\(p\) を奇素数とする。整数 \(a_1,\dots,a_p\) が \(k=1,\dots,m\) のすべてに対して
\[a_1^k+a_2^k+\cdots+a_p^k\equiv 0 \pmod{p}\]をみたすならば,\(a_i\) は \(p\) を法として必ずすべて合同であるか,どの二つも合同でない。このような最小の正の整数 \(m\) を求めよ。
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答えは \(m=\tfrac{p-1}{2}\) である。以下 \(\mathbb F_p\) で考え,\(s_k=a_1^k+\cdots+a_p^k\) とおく。
直接の方針が行き詰まる理由。\(a_i\equiv v\) となる \(i\) の個数を \(n_v\) とすると,条件は \(1\le k\le m\) に対する \(\sum_v n_v v^{k}=0\) と \(\sum_v n_v=p\equiv0\) である。\(m=p-2\) ならばこれは完全な Vandermonde 系であり,すべての \(n_v\) が \(p\) を法として合同になる。これがよく知られた形である。\(m\) が小さいと \(n_v\) に関する線形系の解空間は大きく,重複度の線形代数だけでは何も決まらない。\(n_v\) が和がちょうど \(p\) になる非負整数であることを使わねばならず,その情報をまとめるのが多項式 \(\prod(t-a_i)\) である。
第1段:Newton の恒等式。\(F(t)=\prod_{i=1}^{p}(t-a_i)=t^{p}-e_1t^{p-1}+e_2t^{p-2}-\cdots\) とおく。Newton の恒等式 \(ke_k=\sum_{j=1}^{k}(-1)^{j-1}e_{k-j}s_j\) は \(1\le k\le p\) で成り立つ。\(m=\tfrac{p-1}{2}\) として \(s_1=\cdots=s_m=0\) と仮定する。\(1\le k\le m\) では \(k\) は \(p\) を法として可逆であるから,帰納法により \(e_1=\cdots=e_m=0\) を得る。よって
\[F(t)=t^{p}+g(t),\qquad \deg g\le p-m-1=\tfrac{p-1}{2}.\]第2段:相異なる剰余は少ない。\(a_i\) に現れる剰余 \(v\) はすべて \(F\) の根であり,\(\mathbb F_p\) では \(v^{p}=v\) であるから,\(v\) は \(h(t)=t+g(t)\) の根である。\(h\) が零多項式ならば \(F(t)=t^{p}-t=\prod_{v\in\mathbb F_p}(t-v)\) であり,\(a_i\) はすべての剰余をちょうど一度ずつとる。すなわちどの二つも合同でない。そうでなければ \(h\) は次数 \(\tfrac{p-1}{2}\) 以下の零でない多項式であり,現れる相異なる剰余は高々 \(\tfrac{p-1}{2}\) 個である。
第3段:Vandermonde。現れる相異なる \(0\) でない剰余を \(b_1,\dots,b_r\),その重複度を \(c_1,\dots,c_r\in\{1,\dots,p\}\) とする。第2段より \(r\le m\) である。\(0\) に等しい剰余は \(s_k\) に寄与しないから,\(k=1,\dots,r\) に対して \(\sum_{j=1}^{r}c_jb_j^{k}=0\) である。行列 \((b_j^{k})_{1\le k,j\le r}\) は Vandermonde 行列と \(\operatorname{diag}(b_1,\dots,b_r)\) の積で正則であるから,すべての \(c_j\equiv0\pmod p\),すなわち \(c_j=p\) である。したがって \(r=0\) ですべての \(a_i\equiv0\) となるか,\(r=1\) ですべての \(a_i\equiv b_1\) となる。いずれの場合も \(a_i\) はすべて合同である。ゆえに \(m=\tfrac{p-1}{2}\) は性質をみたす。
第4段:最良性。\(p=3\) のときは \(\tfrac{p-1}{2}=1\) がすでに最小の正の整数である。\(p\ge5\) のとき,\(i=1,\dots,p\) に対して \(a_i=i^{2}\) とおく。\(1\le k\le\tfrac{p-3}{2}\) ならば \(0<2k<p-1\) であり,\(0<j<p-1\) のとき \(\sum_{x\in\mathbb F_p}x^{j}=0\) である(原始根 \(g\) をとれば,この和は公比 \(g^{j}\neq1\) の等比数列の和 \(\sum_{i=0}^{p-2}(g^{j})^{i}\) である)。よって \(s_1=\cdots=s_{(p-3)/2}=0\) であるが,\(1^{2}\equiv(p-1)^{2}\) かつ \(1^{2}\not\equiv p^{2}\) なので,\(a_i\) はすべて合同でもなく,どの二つも合同でないわけでもない。\(m\) が小さいほど仮定は弱くなるから,\(m\le\tfrac{p-3}{2}\) はどれも性質をみたさない。
以上より,最小の \(m\) は \(\tfrac{p-1}{2}\) である。
検算。\(p=5,7,11,13\) について,\(\sum n_v=p\) となる重複度の組 \((n_v)\) をすべて調べた。\(k\le\tfrac{p-1}{2}\) でべき和が消えるとき残るのは定数型と全単射型だけであり(\(\mathbb F_p\to\mathbb F_p\) の写像の個数はちょうど \(p!+p\)),\(k\le\tfrac{p-3}{2}\) では平方写像を含むほかの型が現れることを確かめた。