Daily Mathematics / 解答
2026年10月5日の解答
この日のカードは難しい定積分とオリジナルのパトナム型の問題の2枚である。まず自分で考え、詰まったら解答を開くこと。
積分
二乗の分母をもつ二重対数の積分

次の積分を閉じた形で求めよ。
\[\int_0^1 \frac{\ln(-\ln x)}{(1+x)^2}\,dx\]解答を開く
この積分を \(I\) とおく。\(x=0\) の近くでは分子は \(\ln\ln(1/x)\) 程度にしか増大せず,\(x=1\) の近くでは \(-\ln x\sim1-x\) であるから被積分関数は \(\tfrac14\ln(1-x)\) のように振る舞う。よって積分は収束する。
第1段:内側の対数を外す。\(x=e^{-t}\) とおくと \(dx=-e^{-t}\,dt\) であり,\(t\) は \(\infty\) から \(0\) まで動くので
\[I=\int_0^\infty \ln t\,\frac{e^{-t}}{(1+e^{-t})^2}\,dt\]を得る。重みは完全な導関数である:\(\dfrac{e^{-t}}{(1+e^{-t})^2}=\dfrac{e^{t}}{(e^t+1)^2}=-\dfrac{d}{dt}\,\dfrac{1}{e^t+1}\)。自然な方針は \(-1/(e^t+1)\) を原始関数として部分積分することであるが,これは \(t=0\) で \(-\tfrac12\) となるので,境界項 \(-\tfrac12\ln t\) が発散してしまう。そこで \(1/(e^t+1)\) のうち \(0\) で消えない部分をあらかじめ差し引く。
第2段:修正した部分積分。\(\psi(t)=\dfrac{1}{e^t+1}-\dfrac{e^{-t}}{2}\) とおく。\(0\) で展開すれば \(\psi(t)=\big(\tfrac12-\tfrac t4+\cdots\big)-\big(\tfrac12-\tfrac t2+\cdots\big)=\tfrac t4+O(t^2)\) であり,\(t\to\infty\) では \(\psi(t)=O(e^{-t})\) である。\(\dfrac{d}{dt}\dfrac{1}{e^t+1}=\psi'(t)-\tfrac12e^{-t}\) より重みは \(-\psi'(t)+\tfrac12e^{-t}\) に等しく,
\[I=\frac12\int_0^\infty e^{-t}\ln t\,dt-\int_0^\infty \ln t\,\psi'(t)\,dt\]となる。第1項の積分は \(\Gamma'(1)=-\gamma\) である。第2項を部分積分すると,境界項 \(\ln t\,\psi(t)\) は両端で \(0\) に収束する(\(0\) では \(\tfrac t4\ln t\) のように振る舞い,\(\infty\) では指数的に減衰する)。したがって
\[I=-\frac{\gamma}{2}+K,\qquad K=\int_0^\infty\frac{\psi(t)}{t}\,dt\]である。
第3段:フルラーニ積分の交代列としての \(K\)。\(t>0\) では \(\dfrac{1}{e^t+1}=\sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}e^{-nt}\) である。この和を \(S\) とおけば
\[\frac12\sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}\big(e^{-nt}-e^{-(n+1)t}\big)=\frac12S+\frac12\big(S-e^{-t}\big)=S-\frac{e^{-t}}{2}=\psi(t)\]が確かめられる。\(\varphi_n(t)=\big(e^{-nt}-e^{-(n+1)t}\big)/t=e^{-nt}(1-e^{-t})/t\) とおく。\(t\) を固定すればこれらは正で \(n\) について減少するから,\(\psi(t)/t\) の交代級数の剰余は最初に省いた項で抑えられる:\(\big|\psi(t)/t-\tfrac12\sum_{n\le N}(-1)^{n-1}\varphi_n(t)\big|\le\tfrac12\varphi_{N+1}(t)\)。フルラーニの定理(関数 \(e^{-t}\) に適用)により \(\int_0^\infty\varphi_n(t)\,dt=\ln\frac{n+1}{n}\) であり,誤差の上界を積分すると \(\tfrac12\ln\frac{N+2}{N+1}\to0\) となる。ゆえに項別積分は正当化され,
\[K=\frac12\sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}\ln\frac{n+1}{n}=\frac12\ln\lim_{N\to\infty}\prod_{k=1}^{N}\frac{2k}{2k-1}\cdot\frac{2k}{2k+1}\]を得る。
第4段:ウォリスの公式。この積は \(\prod_{k\ge1}\frac{(2k)^2}{(2k-1)(2k+1)}=\frac{\pi}{2}\)(ウォリスの積)である。よって \(K=\tfrac12\ln\frac{\pi}{2}\) であり,
\[I=\frac12\Big(\ln\frac{\pi}{2}-\gamma\Big)\approx-0.0628164798\]となる。
言い換えれば \(K\) はディリクレのイータ関数の \(\eta'(0)\) であり,\(I=\frac{d}{ds}\big[\Gamma(s)\,\eta(s-1)\big]_{s=1}\) である。これは同じ計算をマルムステン流に読んだものである。検算。さらに \(t=e^v\) とおくと被積分関数は滑らかで両端で速く減衰する。合成ガウス・ルジャンドル求積(\(v\in[-60,6]\) 上で100節点,40区間と200区間)は \(\tfrac12(\ln(\pi/2)-\gamma)\) と約 \(4\times10^{-17}\) の精度で一致し,\(t=u^2\) による別の求積も \(4\times10^{-12}\) の精度で一致した。
競技数学の問題
三項のスケーリング方程式

恒等的に \(0\) ではない連続関数 \(f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}\) で,すべての実数 \(x\) に対して次をみたすものが存在するかどうかを判定せよ。
\[f(x)+f(2x)+f(3x)=0\]さらに \(f\) が \(x=0\) で微分可能であることを課した場合についても,同じ問いに答えよ。
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結論の要約。恒等的に \(0\) でない連続な解は存在するが,\(0\) で微分可能な解は \(f\equiv0\) に限る。
最初の発想がうまくいかない理由。\(x=0\) とおけば \(f(0)=0\) であり,関係式 \(f(x)=-f(x/3)-f(2x/3)\) を \(0\) に向かって繰り返し用いて \(f\equiv0\) を導きたくなる。しかし係数の絶対値の和は \(2\) であって縮小は起こらず,\(0\) での連続性だけでは減衰の速さが得られない。正しい見方は乗法的なものである。等式は \(x,2x,3x\) における \(f\) の値を比べるだけなので,\(|x|^s\) の形の解を探す。
前半:根の存在への帰着。\(s=a+ib\),\(a>0\) が \(1+2^s+3^s=0\) をみたすとする。\(f(0)=0\) とし,\(x\ne0\) に対して
\[f(x)=\operatorname{Re}\big(|x|^s\big)=|x|^a\cos\big(b\ln|x|\big)\]と定める。\(|f(x)|\le|x|^a\to0\) より \(f\) は連続であり,\(f(1)=1\) より \(f\not\equiv0\) である。また \(x\ne0\) では \(f(x)+f(2x)+f(3x)=\operatorname{Re}\big(|x|^s(1+2^s+3^s)\big)=0\) となる。実数の \(s\) では三つの項がすべて正なので不可能であり,根は真に複素数でなければならない。
前半:三角形。\(a\in(0,1)\) を固定する。\((1/3)^a+(2/3)^a\) は狭義単調減少で \(a=1\) のとき \(1\) に等しいから \(3^a<1+2^a\) である。残り二つの三角不等式は明らかである。よって三辺が \(1,2^a,3^a\) の退化しない三角形が存在する。具体的には,\(\theta(a)\in(0,\pi)\) を \(\cos\theta=\dfrac{9^a-1-4^a}{2\cdot2^a}\) で定め,\(u=2^ae^{i\theta}\),\(v=-1-u\) とおく。すると \(|v|^2=1+4^a+2\cdot2^a\cos\theta=9^a\) かつ \(\operatorname{Im}v=-\operatorname{Im}u<0\) であるから,\(v=3^ae^{i\psi}\),\(\psi(a)\in(-\pi,0)\) と書ける。\(\theta,\psi\) は \(a\) について連続で,\(1+u+v=0\) である。\(a\to0^+\) のとき \(\theta\to2\pi/3\),\(\psi\to-2\pi/3\)(正三角形の場合)であり,\(a\to1^-\) のとき \(\theta\to0\),\(\psi\to-\pi\)(退化した場合 \(1+2=3\))である。
前半:角の一致。必要なのは \(b\ln2\equiv\theta\),\(b\ln3\equiv\psi\pmod{2\pi}\) をみたす実数 \(b\) である。未知数一つに条件が二つあるので,\(a\) も動かさなければならない。\(b=(\theta+4\pi)/\ln2\) とおけば第1の条件は成り立ち,\(\lambda=\log_2 3\) とおくと第2の条件は
\[F(a)=\frac{(\theta(a)+4\pi)\lambda-\psi(a)}{2\pi}\]が整数であることと同値である。\(F\) は \((0,1)\) 上連続で,\(F(0^+)=\tfrac73\lambda+\tfrac13\),\(F(1^-)=2\lambda+\tfrac12\) である。\(2^{11}=2048<2187=3^7\) と \(3^4=81<128=2^7\) から \(\tfrac{11}{7}<\lambda<\tfrac74\) が従い,\(F(0^+)>4>F(1^-)\) を得る。中間値の定理によりある \(a\in(0,1)\) で \(F(a)=4\) となり,このとき \(2^s=u\),\(3^s=v\) であるから \(1+2^s+3^s=0\),\(0<\operatorname{Re}s<1\) である。以上で連続かつ恒等的に \(0\) でない解の存在が示された。
後半:\(0\) での微分可能性はすべての解を消す。\(f\) は連続で \(0\) において微分可能であり,等式をみたすとする。\(f(0)=0\) であり,\(f(x)+f(2x)+f(3x)=0\) を \(x\) で割って \(x\to0\) とすれば \(6f'(0)=0\) を得る。よって \(g(x)=f(x)/x\)(\(x\ne0\))は連続で,\(x\to0\) のとき \(0\) に収束する。\(r>0\) に対して \(M(r)=\sup_{0<|x|\le r}|g(x)|\) とおくと,これは有限で \(r\) について単調非減少であり,\(r\to0\) のとき \(0\) に収束する。等式で \(x\) を \(x/3\) に置き換えて \(x\) で割れば
\[g(x)=-\tfrac13\,g(x/3)-\tfrac23\,g(2x/3)\]となる。ゆえに \(0<|x|\le r\) では \(|g(x)|\le\tfrac13M(r/3)+\tfrac23M(2r/3)\le M(2r/3)\),すなわち \(M(r)\le M(2r/3)\) である。これを繰り返せば \(M(r)\le M\big((2/3)^nr\big)\to0\) となる。したがって \(g\equiv0\),\(f\equiv0\) である。重み \(\tfrac13,\tfrac23\) の和がちょうど \(1\) であるため上界は損失なく伝わる。前半で \(\operatorname{Re}s<1\) が必要だったのもこのためであり,実際 \(1+2^s+3^s\) の根の実部はすべて \(1\) 未満である。
検算。ニュートン法により,\(0<\operatorname{Re}s<1\) で虚部が正かつ最小の根として \(0.94059+8.23071i\) と \(0.13262+20.97964i\) の近くの根が得られた。\(F(a)=4\) を二分法で解くと後者が再現され,\(|1+2^s+3^s|<10^{-14}\) である。最初の根から作った \(f\) を \(10^4\) 個の無作為な点で調べたところ,\(f(x)+f(2x)+f(3x)\) は \(3\times10^{-14}\,|x|^a\) 以内で \(0\) であった。