Daily Mathematics / 解答
2026年10月27日の解答
この日のカードはオリジナルの数学オリンピックの問題である。まず自分で考え、詰まったら解答を開くこと。
数学オリンピックの問題
単調増加関数とその逆関数の積

\(f\colon[0,1]\to[0,1]\) は連続な狭義単調増加関数で,\(f(0)=0,\ f(1)=1\) をみたすとする。\(f\) の逆関数を \(f^{-1}\) とするとき,積分
\[\int_0^1 f(x)\,f^{-1}(x)\,dx\]
の最大値を求めよ。また,最大値を与える \(f\) をすべて求めよ。
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\(g=f^{-1}\),\(I=\int_0^1 f(x)g(x)\,dx\) とおく。\(g\) も \([0,1]\) 上の連続な狭義単調増加の全単射である。答えは \(I\) の最大値 \(\tfrac13\) であり,これを与えるのは \(f(x)=x\) のみである。
素直な方法が通用しない理由。 相加相乗平均より \(fg\le\tfrac12(f^2+g^2)\) であり,\(\int_0^1 g^2=1-2\int_0^1 xf(x)\,dx\) を用いると \(I\le\tfrac13+\tfrac12\int_0^1(f(x)-x)^2\,dx\) となるが,これは不等号の向きが逆である。コーシー・シュワルツの不等式は \(I^2\le\int f^2\int g^2\) を与えるが,右辺の積は \(\tfrac19\) を超えうる(適当な折れ線の \(f\) で約 \(0.144\))。置換に対する離散版なら並べ替え不等式で直ちに片付くが,ここでは \(f(X)\) と \(g(X)\) の分布が一致しないので役に立たない。新しい発想が必要である。
第1段:積分を確率として読む。 \(X,Y,Z\) を \([0,1]\) 上の独立な一様確率変数とする。\(x\) を固定すると,\(g(Y)<x\) は \(Y<f(x)\) と同値であるから \(\Pr(g(Y)<x)=f(x)\) であり,また \(\Pr(Z<g(x))=g(x)\) である。\(X\) で条件づけて独立性を用いれば
\[I=\Pr\bigl(g(Y)<X\ \text{かつ}\ Z<g(X)\bigr)\]
を得る。
第2段:巡回させた3つの事象。 3つの比較 \(r_1=[g(Y)<X]\),\(r_2=[g(X)<Z]\),\(r_3=[g(Z)<Y]\) を考える。等号の場合は確率 \(0\) であるから,第1段の事象は零集合を除いて \(A=\{r_1\ \text{が真},\ r_2\ \text{が偽}\}\) である。\((X,Y,Z)\) の同時分布を変えない置き換え \(X\to Y\to Z\to X\) を施すと,\(A\) は \(B=\{r_3\ \text{が真},\ r_1\ \text{が偽}\}\) に,もう一度施すと \(C=\{r_2\ \text{が真},\ r_3\ \text{が偽}\}\) に移る。よって \(\Pr(A)=\Pr(B)=\Pr(C)=I\) である。
この3つの事象はどの2つも排反である。実際,\(A\) は \(r_1\) が真,\(B\) は \(r_1\) が偽であることを要求し,\(B\) と \(C\) は \(r_3\) について,\(C\) と \(A\) は \(r_2\) について同様に矛盾する。したがって \(3I=\Pr(A\cup B\cup C)\le 1\),すなわち \(I\le\tfrac13\) である。
さらに精密に,真偽の組が \(A\cup B\cup C\) に属さないのは \(r_1=r_2=r_3\) のときに限る。\(r_1\) が真なら,\(A\) を避けるために \(r_2\) は真,次に \(C\) を避けるために \(r_3\) も真となる。\(r_1\) が偽なら,\(B\) を避けるために \(r_3\) は偽,次に \(C\) を避けるために \(r_2\) も偽となる。ゆえに条件をみたすすべての \(f\) に対して
\[I=\frac{1-\Pr(r_1=r_2=r_3)}{3}\]
が成り立つ。
第3段:恒等関数で等号が成立する。 \(f(x)=x\) のとき,3つの比較がすべて真なら \(Y<X<Z<Y\) となって不可能であり,すべて偽なら \(Y\ge X\ge Z\ge Y\) となって確率 \(0\) の事象である。よって \(I=\tfrac13\) であり,これは \(\int_0^1x^2\,dx\) からも確かめられる。
第4段:他の関数では等号は成立しない。 \(f\) が恒等関数でなければ \(g\) も恒等関数でなく,ある \(t\in(0,1)\) で \(g(t)\ne t\) となる。\(g(t)<t\) の場合,\(\varepsilon=(t-g(t))/3\) とおき,連続性により \(\delta\in(0,\varepsilon)\) を,\(|u-t|<\delta\) ならば \(|g(u)-g(t)|<\varepsilon\) となり,かつ \((t-\delta,t+\delta)\subset[0,1]\) となるようにとる。このとき区間内の \(u,v\) に対して \(g(u)<g(t)+\varepsilon=t-2\varepsilon<t-\delta<v\) が成り立つ。よって \(X,Y,Z\) がすべてこの区間に入れば3つの比較はすべて真であり,\(\Pr(r_1=r_2=r_3)\ge(2\delta)^3>0\) を得る。\(g(t)>t\) の場合も同様に,\(t\) の近くの \(u,v\) で \(g(u)>v\) となり,3つの比較がすべて偽となる事象が正の確率をもつ。いずれにしても \(I<\tfrac13\) である。
結論。 最大値は \(\tfrac13\) であり,これを与えるのは \(f(x)=x\) のみである。参考までに,\(f(x)=x^a\) では \(I=1/(a+1/a+1)\) となり,条件をみたす \(f\) 全体での下限は \(0\)(達成されない)である。
検証。 折れ線で表した単調増加全単射 3000 個を無作為に調べたところ \(I\) は \(0.33333\) を超えず,最良のものは恒等関数に近かった。等式 \(I=(1-\Pr(r_1=r_2=r_3))/3\) は無作為な4つの \(f\) について \(4\times10^6\) 標本のモンテカルロ法で確認し,誤差は \(3\times10^{-4}\) 以内であった。また \(x^a\) の族は数値積分で \(1/(a+1/a+1)\) と一致した。